1. HOME
  2. お知らせ
  3. 確かな世界と似て非なるもの

NEWS

お知らせ

お知らせ

確かな世界と似て非なるもの

九州文學の2024年秋・冬号が先日届きました。熟す前のメロンのようなインクの匂いを嗅ぎながら紙のページをめくる喜びは、いくつになっても萎みません。同人仲間の顔を思い浮かべながらタイトルを眺め、いつしか作中に没入して過ごす秋の夜長は実に幸せなものです。昨今はデジタル化が進み公立図書館でさえ電子書籍をダウンロードして読めるようになりました。電子書籍を買うこともあります。それでも紙の本を手にする嬉しさは何なのでしょう。紙フェチ? いいえ。それはやはり、印字された確かな世界がそこにあるからでしょう。
では「確かな」とはなにか。AIが小説だって作れるそうです。学ぶはまねぶ。人間だって人間に育つには模倣から始まるのだから、AIに出来ないはずがありません。意外性のある傑作が次々と生み出される日も近いでしょう。けれども、人間が書いたものものだからこそ小説は、詩は、短歌も俳句もエッセイも、面白いのではないでしょうか。人は生きている。生きているから病があり老いがあり、死があり哀しみがある。愛も辛酸もなめる。肉体をもたないAIに何が分かるでしょう。膨大なデータからアウトプットされた偶然の産物の後ろには誰もいません。文学はその言葉の後ろに人がいる。「確かな」とはそういう意味です。なおかつ、言葉が作品になったときその作者から独立して世界を立ち上げる。そこがなんともいえない面白さです。
そして、後ろの人たちが集まりああだこうだ語り合う合評会がまた楽しみです。読んだり書いたりがお好きな方は、一度のぞいてみませんか?

へそ天(九州文学同人)

最新記事