兵馬俑博物館から少し離れた北側に、鴻門宴遺跡がある。秦王朝に反旗を翻した、項羽と劉邦にまつわる有名な場所だ。当初は項羽に分があり、目障りな劉邦を宴に誘い、剣演舞で劉邦を殺そうとするシーンがここに再現されている。劉邦はトイレに行く振りをして脱出し、後に形勢を逆転させる。劉邦は項羽を垓下（がいか）に追い詰め、楚の歌を聞かせる。項羽は四方八方から聞こえる楚の歌を聞き、すでに劉邦に包囲されている事を悟り、自害する。これは後に「四面楚歌」の由来となる。私はこのシーンを横山光輝の漫画「史記」で見た。再現された項羽と劉邦の人形は、漫画とのイメージがよくマッチしており、まるで漫画がそのまま浮き出てきたようで圧倒され、しばし見入ってしまった。
中国では、「項羽と劉邦、どちらが好きか？」と聞かれる事が多いらしい。項羽は、武勇に優れ、カリスマ性溢れる人物。劉邦は、武勇には乏しいが、知略と人心掌握に優れた人物。結果として劉邦が勝利し、前漢後漢と400年も続く王朝を作り上げる。なので、さぞ劉邦の人気が高いかと思いきや、中国の人は項羽を支持する人も多いとの事。
日本の武将に例えると、項羽は信長のようで、劉邦は秀吉のようにも思える。結局、信長は光秀に殺されてしまうので、やはりカリスマ性溢れる人物は最後につぶされてしまう運命なのか、とも感じた。
しかし、項羽と劉邦の妻の記録を見ると、その差は歴然である。項羽の妻は虞美人と言い、項羽の為に最後は井戸に身を投げる程の糟糠の妻で、その美貌は中国三大美女と人気が高い。一方、劉邦の妻、呂后は嫉妬深く、側室の手足を切り厠に投げ捨てた記録が残っており、中国三大悪女とされている。妻でいえば、項羽に軍配が上がりそうだ。
劉邦は、始皇帝ほどの実力がない事を分かっていた為、軍事を韓信に、政治を蕭何に託した。それが故に「漢」は長続きしたのではないか、との説もある。だとすれば、やはり、カリスマ性よりも知略と人心掌握に長けた統治者の方が、人民にとっては、良い選択なのかも知れない。
そんなあれこれを思いつつ、項羽と劉邦という、中国の歴史においてとても重要な人物が居たこの地に立てた事は、とても光栄だった。