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悪夢の効用

思えば、これまでいい夢を見た記憶があまりありません。どちらかと言えば、悪い夢を見た記憶が圧倒的に多い。
たとえば、大学の卒業間際に就職が決まらなくて途方に暮れている夢。就職に苦労したことがよほどひどいトラウマになっていたのでしょう。この夢は定年の頃まで見ていました。
そうかと思えば、定年後再任用で勤めていたときは、再任用の勤務先が過去に勤務した最悪の職場で、「なんで定年後にこんな目にあわんといかんのか」と嘆き悲しむ夢。
悪夢とはいえ、じつにいやらしいまでに自分が望まないことが細部にわたりリアルに再現されていて、感心しました。
悪夢にはある効用があるらしいのです。
嫌な目にあう恐れを感じている時に、夢の中でそれを前もって体験して、心の予行練習をしているんだと。
ところがこの前、私はとんでもない夢を見ました。
私は22歳、大学を卒業したばかりで、やる気満々、これから活躍するぞと就職口を探しているのです。
こんな夢は初めてです。
これは、もう失敗の予行練習をしなくてもいいということ?
言葉を換えれば、失敗を心配するようなイベントもなくなって、私の人生が終末期にさしかかっているということ?

九州文学編集長 木島丈雄

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